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優秀修士論文賞
測定器開発第13回優秀修士論文賞
(2022年度修士論文)
記念講演
日本物理学会第78回年次大会(東北大学)において、9月17日に表彰式と招待記念講演会が開催されました。
会場・時間: RC21会場, 13:50~15:00
受賞者(向かって中央;木野氏、右側;栗原氏)には表彰状・クリスタル製の表彰盾のほか、本賞協賛企業であるセイコー・イージーアンドジー(株)、 ハヤシレピック(株)、(株)Bee Beans Technologiesから副賞としてアマゾン券が贈呈されました(五十音順・敬称略)。
優秀修士論文賞
高エネルギー光子・電子ビームプロファイルモニタの開発と加速器研究への応用
木野 量子 (東北大学)
授賞理由
本論文は1 GeV付近の制動放射光子ビームプロファイルモニタの開発についてまとめた論文である。 東北大電子光理学研究センター(ELPH)の BM4 光子ビームラインに供給される光子ビームのプロファイルを定量的かつ即時的に測定するための検出器開発が目的である。電子シンクロトロン内部を周回するビームのパラメータと制動放射光子ビームの関係性の説明から始まり、検出器の基本設計、製作、データ解析、および加速器パラメータの導出までを詳細に記述した優れた論文である。高速応答が可能なプラスチックシンチレータとMPPCを組み合わせて、数10MH zの強度の光子ビーム測定を可能にしている。また、読み出し系にトリガーレスの連続読み出し型TDCを採用しており、1秒間のプロファイル測定で10 μm以上の位置精度を達成しつつ、データ取得から10秒で結果が得られるという即時性を同時に達成している。これら製作や解析の過程が丁寧に記述されているだけでなく、周回電子のパラメータや強度分布の詳細な測定を可能にしたことも高く評価された。 導入から考察まで一貫してよく記述されたまとまりのよい論文であり、測定器開発の優秀論文賞に値する。
XRISM 衛星搭載極低温検出器における電磁干渉の影響評価と低減
栗原 明稀 (東京大学)
授賞理由
X 線天文観測衛星 XRISMには極低温検出器 Resolveが搭載され、このような大電力消費機器が多数充填された衛星プラットフォームでは極めて低く安定したノイズ環境が必要である。本論文では、Resolve 装置における電磁干渉ノイズの課題に正面から取り組んだ研究をまとめている。具体的には干渉パスとして特に重要な、姿勢制御系の作る低周波磁場、通信系が作る高周波電磁場、電源系が作る伝導を検討した。 それぞれ、シミュレーションを用いたインターフェースの設定、装置及び衛星レベルの試験の実施および性能評価を行い、現象の物理的理解とリスク低減を図った。特に、ノイズの原因を色々な角度から検討し測定したこと、試験装置の自作から試験実施とデータ解釈を先導して行ったこと、ならびに、富岳を用いた電磁シミュレーションなど新たな技法を開拓したことが、高く評価された。本論文は総ページ数250ページ以上にわたり詳細に記述されており、著者が高い理解度の上で主体的に楽しんで研究を進めたことが伺える修士論文であり、測定器開発の優秀論文賞に値する。
全体論評
測定器開発優秀修士論文賞は、2010年度に修士論文を対象として創設をしてから13回を数えるが、今回から高エネルギー宇宙物理連絡会も賛同団体として加わっていただいた。今回2022年度分としては、24篇の素晴らしい論文の応募があった。まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、今年も宇宙分野の割合が大きい一方、原子核分野からの応募が少ないのが残念である。工学関連からも2篇の応募あった。このように多くの優秀な論文が応募されたことに対して、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議、高エネルギー宇宙物理連絡会をはじめ、放射線物理、放射光科学、中性子科学、中間子科学など関連分野の皆様のご協力に感謝したい。
開発研究の主役である技術要素も、図2に示すように例年通り多岐にわたっている。少し細かく分類したが、3編の有機シンチレータは少し目立っている感はある。まだまだ、機械学習やAIを主眼した論文があるわけではないようである。これも例年通りであるが、優秀論文賞が、応募論文が多い技術要素の分野から必ず選ばれるわけではない。
選考は素粒子、原子核、宇宙線、高エネルギー宇宙物理各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行った。2月末の締め切り後、査読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした
。
1.論文の完成度
2.背景技術の理解度
3.開発研究の意義とその理解
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述
5.研究における本人の独創性、主体性
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
1ヶ月かけてまず8篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約1ヶ月かけて、全委員がこの8篇について改めて熟読、採点をして、最終的には4月28日に選考委員会が行われ、優秀論文賞として2篇が選出された。1篇はシンチファイバーを光子ビームモニターとして応用し、高速処理を達成して、なおかつ測定結果を加速器パラメーターの導出まで考察した論文で、もう1篇は、X 線天文観測衛星に搭載される極低温検出器の電気ノイズを詳細に評価した論文である。内容は、両篇とも著者自身が主体的に研究開発に取り組み、結果まで導いた過程が生き生きと記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切であり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であると言える。
例年のことであるが、残念ながら賞から漏れた論文にも優秀なもの多かった。特に今年は、もう1編優秀な論文があり、審査委員会内で多くの議論をした結果、最終的には選からもれたことを付け加えておきたい。
(†)選考委員リスト(敬称略)
●審査委員
コミュニティ委員
青木正治(大阪大学)、大田晋輔(阪大RCNP)、澤田崇広(東京大学)、高田淳史(京都大学)、身内賢太朗(神戸大学)、吉村浩司(岡山大学)
●KEK 所内委員
岩瀬広、関口哲郎、田中秀治
●事務局
本多良太郎、中浜優、宇野彰二