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優秀修士論文賞
第5回論文賞
(2014年度修士論文)
第5回測定器開発・優秀修士論文賞、計測システム特別賞が決定いたしました。受賞された三人には、心からお祝いを申しあげます。
松村氏、仲村氏、塩崎氏の受賞風景
(受賞記念講演会;大阪市立大学;平成27年9月27日、SD会場27aSE-1@物理学会)
第5回測定器開発優秀修士論文賞は、2015年4月30日に開催された最終選考委員会において優秀論文賞2編および、計測システム特別賞1篇に決定し、2015年9月27日の物理学会秋季大会(大阪市立大学)において表彰式及び特別講演会が開催されました。
受賞者にはクリスタル製の表彰盾のほか、 本賞協賛企業であるセイコー・イージーアンドジー(株)、 林栄精器(株)から副賞としてアマゾン券が贈呈されました。
優秀修士論文賞
宇宙 X 線観測用 SOI ピクセル検出器における電荷収集効率の改善
松村 英晃(京都大学)
授賞理由
筆者らは先行研究の問題点を改良したSOIピクセル検出器を試作し、そこでゲインが低いピクセルが偏在するという問題点を、線源を使ったテストとビームテストにより特定し、その原因追究とデザイン改善をシミュレーションによって行った。さらに改良した試作チップを作製してその問題解決が為されたことを確認するまでが、起承転結良く論文にまとめられている。問題の原因を切り分け・特定に至るストーリーは臨場感があった。半導体検出器の開発研究は、短期間に成果を積み上げることは容易ではないが、本研究では、科学的かつ着実にそれを遂行していることが高く評価される。
いくぶん読み難い箇所もあったが、全体をとおして非専門家も含めて読みやすい論文であった。
T2K 実験ニュートリノビーム増強のための
J-PARC MR Intra-Bunch Feedback System の開発
仲村 佳悟(京都大学)
授賞理由
加速器で使用されているビーム非破壊型Beam Position Monitor(BPM)やBPMを用いたバンチ整形フィードバックシステムの原理の行き届いた解説の後、バンチ内フィードバックを可能とする広帯域化されたBPM製作とその定量的評価、このシステムをJ-PARC Main Ring (MR)で構築するまでの工程をくまなく記載した修士論文である。短い修士課程の間に達成された本人の高い理解度と開発研究のめざましい進捗に畏敬の念すら覚える。特に広帯域化したBPMとフィードバックをJ-PARC のMain Ring にて実用化、ビーム不安定性をみごとに抑え込んで、ビーム強度をフィードバック挿入前に比べて数10%程度増加させ、世界最高強度のビーム実現に貢献したことが高く評価された。
計測システム特別賞
Σp 散乱実験のための MPPC多チャンネル読み出しシステムの開発
塩崎 健弘(東北大学)
授賞理由
MPPC読み出しのASIC以降のバックエンド部のエレクトロニクスシステムに関する論文である。特にFPGAによるデジタルデータ処理部分をわずか2年間でほぼ0から高い完成度に仕上げたことは特筆に値する。設定した目標を着実に達成し、汎用性の高い計測システムを仕上げたことを高く評価した。論文の記述は懇切丁寧で読み応えも十分である。検出器の信号から本研究の開発方針につながる動機やストーリーが含まれているとなお良かったであろう。
本選考委員会は、測定器本体に比べると評価の対象になりにくいエレクトロニクスに関する成果も、同様にこの測定器開発修士論文賞においてエンカレッジしていくべきであろうという意見を鑑みて本論文に計測システム特別賞を授与することを決定した。
全体論評
第5回目を迎えることになった測定器開発優秀修士論文賞、今年度は23編と例年を大きく上回る数の修士論文が、全国から集まった。毎年のことながらいずれも研究の内容・論文としての完成度ともに高いレベルであることには変わりないが、それが23編も集まったことで、選考委員諸氏には、苦悩の春を迎えることとなった。一方で我が国の大学院修士課程における測定器技術に対するますます高まる意識をひしひしと感じられ、頼もしい気持ちともなった。
23編の内訳は、分野別には素粒子-10、原子核-5、宇宙-3、その他-5となっており、今年度は素粒子からの応募が目立つが、放射線計測、放射光科学、医学診断などの幅広い分野からの応募があり、測定器技術関連分野の連携・拡がりが一段と深まりつつあることが実感できる。技術内容における分類では、半導体検出器-4、ガス検出器-2、シンチレータ-2、光センサー-2、超伝導検出器-2、エレキ/DAQ-3,検出器複合システム-4、ビーム物理-2、その他-2となり、これもかってない広がりを見せており、測定器開発と言う研究分野が質量ともに着実な進展をしていることが確認できる。ただ今回の応募の中には、測定器技術(あるいは計 測技術)関連の開発研究という枠を超えて、むしろその高度化によって進展した計測・診断の内容をテーマにするものがあったが、これは本論文賞のスコープを超えたものであるため、選考の対象としては考慮しなかった。分野によっては、測定器技術の開発研究のみでは、修士論文のテーマとしてなじまないことも想像されるが、その場合でも開発研究の技術的側面の成果が論文の中に盛り込まれていることは、本論文賞の対象としては欠くことができないものと考える。
選考は、素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む合計12名の選考委員(※)により、例年通り2段階で行われた。2月末の締め切り後一月かけてまず6編の候補論文に絞り込み、その後さらに3週間をかけて、全委員がこの6編について改めて熟読、採点をして最終的には4月30日に最終選考委員会に臨んだ、応募論文数に現れる測定器開発研究の充実は、個々の応募論文にも確実に反映されて、いずれの論文も十分な手ごたえがあり、その論述・組み立てには完成度の高いものも多く、委員一同多忙な中にも閲読を楽しむひと時もあったと聞いている。
応募論文の中には、世界最先端の技術を開発することにその意義を求めるものから、既存技術を高い完成度でシステム化して様々な局面での応用を可能とする開発までいろんな方向性があり、高い開発研究成果を達成するものも多く、その順序をつけることは自明ではない。多くの論文では、きちんとしたイントロを準備してその体裁も万全で読者にも大変親切ではあるが、中盤以降でそれに連なる展開が十分行われていないものも、少なからずあった。やはり研究開発の出発点となるMotivationを核として一貫したストーリーを展開する論文が高い評価を得ることとなる。
なおこのような充実したイントロにおいて、参考文献を適切に引用することは、時世がら今後いっそう求められることが委員より指摘があったことに留意したい。
2次審査に残った6編からの選考は容易な決断ではなかったが、最終的に優秀修士論文賞2編と特別賞1篇を、委員全員の合意のうえ以下のように選考した。
測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長
幅 淳二
※選考委員リスト(敬称略)
末包 文彦(東北大学)、竹谷 篤(理化学研究所)、東城 順治(九州大学)、
味村 周平(大阪大学)、岸本 康宏(宇宙線研)、山本 常夏(甲南大学)、
宇野 彰二、内田 智久、岸本 俊二、田島 治/丸山 和純(幹事)、
幅 淳二(委員長)(KEK)
放射線計測、放射光科学、医学診断など含む幅広い分野からの応募がありました。