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優秀修士論文賞
第14回論文賞
(2023年度修士論文)
第14回測定器開発優秀修士論文賞の表彰式と招待記念講演会が、物理学会2024年年次大会(北海道大学)に於いて開催されました。
記念講演
日本物理学会第79回年次大会 (2024年)(北海道大学)に於いて、9月18日に表彰式と招待記念講演会が開催されました。
会場・時間: RWA203会場, 9:20〜10:30
受賞者(向かって右側;恩田氏、中央;竹内氏、)には表彰状・クリスタル製の表彰盾のほか、本賞協賛企業であるセイコー・イージーアンドジー(株)、 ハヤシレピック(株)、(株)Bee Beans Technologiesから副賞としてアマゾン券が贈呈されました(五十音順・敬称略)。
優秀修士論文賞
水-ニュートリノ反応の精密測定に向けた水ベース液体シンチレータ飛跡検出器の開発
恩田 直人(京都大学)
授賞理由
本論文は、ニュートリノと水の反応を高効率で検出できる水ベース・液体シンチレータの開発についてまとめた論文である。ニュートリノビームを用いた長基線ニュートリノ振動実験において、系統誤差の削減を目的とした水を標的とした前置検出器の開発が目的である。細分割読み出し方を採用した水ベース・シンチレータ検出器の作成、東北大学電子光理学研究センターでのビーム試験の内容・結果、その結果を受けた光量増加のための開発研究、測定結果を定量的に理解するためのシミュレーションの開発までを詳細に記述した優れた論文である。小型試作機を用いたビーム試験の結果、水ベース液体シンチレータの発光量の増大と反射材の反射率の上昇が必要であることを示した。実験室のテストで、効率よく液体シンチレータを溶解する界面活性剤を発見し、最終的に水の割合の低下を3%に抑えながら、約1.78倍の検出光量を達成した。新たな界面活性剤の使用は、著者の独自の成果であり、非常に高く評価された。加えて、反射材を向上させることで、さらに1.4倍の検出光量の増加が可能であることを示した。また、シミュレーションにより、前置検出器としての目標を達成するために要求性能を定量化して示した。
ダークフォトン探索に向けた広帯域分光計の開発と評価
竹内 広樹(京都大学)
授賞理由
本論文は、RFSoCチップを使った高周波分光装置の開発についてまとめた論文である。ダークフォトン探索において、電磁波信号の探索範囲は数 GHz から数百 GHz 帯域にわたり、ピーク信号を捉えるためには優れた周波数分解能(<100kHz)とデットタイムレスな高速フーリエ変換(FFT)演算処理が要求される。帯域幅4GHzの周波数スペクトルを、30kHz(=4GHz/217 点)という超分解能でデットタイムレスに取得する分光計を開発した。これによって、探索する時間効率は、従来と比較して2千倍も向上した。モチベーションとなる背景となる物理の説明、全体設計から実装、最適化した FFT 回路開発、丁寧な性能評価試験、そしてダークフォトン探索実験におけるインパクトの考察までを記述した優秀な修士論文である。特に、広帯域・高分解能・デットタイムレスという、「限られたリソース下では、どれかを良くすると他が悪くなる」状況を独自のアイデアで打開している。具体的には、16並列 FFT 処理という時間効率化と独自の演算処理によるリソース節約化を最適に組み合わせることにより、実現した。これはダークマター研究だけでなく、通信や量子コンピューター といった産業に対してもインパクトが大きい発明なので、特許も出願している。
全体論評
測定器開発優秀修士論文賞は、2010年度に修士論文を対象として創設してから14回を数えるが、今回2023年度分としては、例年と同程度の21篇の素晴らしい論文の応募があった。中には、200ページを超える大作も含まれていた。まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、統計は少ないが、今回は原子核分野からの応募が増えて、バランスが良くなったことは喜ばしいことである。このように多くの優秀な論文が応募されたことに対して、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議、高エネルギー宇宙物理連絡会をはじめ、放射線物理、放射光科学、中性子科学、中間子科学など関連分野の皆様のご協力に感謝したい。
開発研究の主役である技術要素も、図2に示すように例年通り多岐にわたっている。分類の仕方で印象が変わるが、今回は、こちらも全体のバランスが良くなった気がする。もちろん、優秀論文賞が、応募論文が多い技術要素の分野から選ばれるわけではない。
考は素粒子、原子核、宇宙線、高エネルギー宇宙物理各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、合計12名の選考委員※ により、例年通り2段階で行った。2月末の締め切り後、査読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。
1.論文の完成度
2.背景技術の理解度
3.開発研究の意義とその理解
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述
5.研究における本人の独創性、主体性
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
1ヶ月かけてまず6篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約1ヶ月かけて、全委員がこの6篇について改めて熟読、採点をして、最終的には4月30日に選考委員会が行われ、優秀論文賞として2篇が選出された。1篇は水ベース・液体シンチレータの開発で、目標性能を達成するまでの過程が生き生きと記述されている論文で、もう1篇は、ダークフォトン探索に向けた広帯域分光計の開発で、高速処理を実現し、時間効率を飛躍的に向上させた論文である。両篇とも著者自身が主体的に研究開発に取り組んだ内容が、詳細に記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切であり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であると言える。
例年のことであるが、残念ながら賞から漏れた論文にも優秀なものが多かったので、僅差であったことを申し添える。
※選考委員リスト(敬称略)
●審査委員
コミュニティ委員
青木正治(大阪大学)、大田晋輔(阪大RCNP)、澤田崇広(東京大学)、
陣内修(東京工業大学)、高田淳史(京都大学)、多米田裕一郎(大阪電気通信大学)
●KEK 所内委員
岩瀬広、関口哲郎、田中秀治
●事務局
中浜優、小沢恭一郎、宇野彰二
これまでの論文賞
お問い合わせ
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 測定器開発センター
「測定器開発優秀修士論文賞」事務局
E-mail: itdc-ronbun2023★ml.post.kek.jp (★を@に読み替えて送信下さい)
尚、応募書類に含まれる個人情報については、「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」及び、本機構の「個人情報保護規程」に基づき厳重に管理します。